トンネルの中の家族

【演者】上本こづえ    【監修】八木大輔
 
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昨年の6月に父が脳梗塞で倒れ、医療従事者である私はリスクのある脳梗塞の治療ではなく保存治療を選択した。すべてはここから始まった。
 
基礎疾患のある父は転院先の病院を選ぶ余地もなく人手の少ない老人病院のようなリハビリ病院へと転院したが、人間扱いされない対応に父はストレスを感じ、認知症となってしまったこともあり在宅療養をすることにした。
 
退院した当初家族は自宅に帰ってこられたので、あと父に必要なことはリハビリだけだと思っていたが、父本人は身体が動かないことにずっとストレスを感じていた。そのストレスが爆発したことで負の連鎖が始まった。
 
父は介護をしている母に当り、母は私や孫に当たるようになっていった。
3ヶ月後には父による言葉の暴力が始まり、「お前の言うとおりにしたからこんな身体になったんだ」
という一言が看護師として、娘としての私の胸に突き刺さった。
ついには暴力までもが始まった。家族は最低限の処置以外の時間は父に近づかなくなった。
仕事と介護を両立していた私もついに限界となり父を突き飛ばしてしまう、そこには自分のしたことを後悔する自分と早く父に死んでもらいたいと思う自分がいた。
遠くで暮らす兄弟にはそんな状況は理解してもらえず、在宅に帰ることの難しさを改めて実感した。
 
そのうち、父だけでなく私自身も病んでいることに気がつき、医師からも鬱との診断をされ心療内科に行くことを決意した。
心療医に父の話を聴いてもらうことで自分が落ち着いてきたことを実感し、さらに心療医のアドバイスを受け、父の在宅医を30年来の付き合いのある先生に変わってもらったところ父も見違えるように変わり家族全体が明るくなった。
 
私たち家族は当初、本当に真っ暗なトンネルの中にいるようでしたが、今の私たち家族は地域の人たちが声を掛けてくれる、隣のおばさんが愚痴を聴いてくれる、近所の子供たちが遊びに来てくれる、そんな日常のたわいのないことで本当に救われている。今は暗かったトンネルの中にも明るさを感じている。
 
本当の意味でのトンネルの出口というのは父がこの世からいなくなることかもしれないが、暗いトンネルではなく、周りの人たちの協力を得ながら広く明るいトンネルを作り、そこをゆっくりと無理することなく進んでいくことが大切なのだと感じている。